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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

大阪・南港

        <八月八日>  -爾-  

 大阪・南港

  殺風景な南港が見えてきた。


 大きな船が目に入る。


    「あれかなー?」


    「と思うけど。」


 タクシーが船の近くで止まった。



  乗船までにはまだ時間があると見えて人でごった返している。


 その中でもひと際騒がしい一群が目にとまった。


    「あれ?」


    「知ってるの?」


    「仲間が居る。何で今頃こんなとこに?」


    「あんただって、ここに居るじゃない!」


    「そうだな!」


 目の前に、出発式が終わって東京で別れたヒッチハイカーの仲間達が

ここに居る。


 沖縄経由の台湾行きの定期便が少ない為の偶然の再会である。


    (沖縄~台湾の切符は往復のチケットを購入しないと手にはい

らない。台湾へ渡った後復路のチケットを解約するよう東京の叔父さんに頼

んできた。)


 途中までしか参加出来ないと残念がる大阪支部長のN氏。


 若いW君に背の高い新保君など完走を目指す四人だ。


 彼らを取り巻くのは、彼女や友人達ニ十数人の賑やかな見送り集団

だ。

 

      「ヨー!すごい見送りだな。・・・・・兄貴は(会長)?」と

俺。


    「ヤー!東川君!何してた!兄貴は一足先に行ってるよ!」と

和智の弟。


    「まさかこんなとこで逢うとはな。」


    「女の子連れて・・・・良いなー!」


    「沖縄で世話になろうと思って・・・・。」


    「うまい事やってるじゃん!」


    「お前らだってすごい見送りだな!」



  会長の弟政男君21歳、モーターサイクルエンジニアである。


 ゴールのアテネで、後から来る彼女とパルテノン神殿で結婚式を挙げ

るのだと張り切っている。


   (会長も第1回東京~網走ヒッチハイク大会のゴールで結婚式を挙

げている。)


 その彼女も元気な姿を見せているた。



  岸壁には、琉球海運の「だいやもんど・おきなわ丸」が横付けされてい

る。


 12:00出航予定。


 乗船は30分前に始まった。


 一足早く乗船を済ませ、席を確保した後デッキに出てみると、仲間達

がまだ乗船せず歓声をあげている。


 5分前、やっと上がりこんできた。


 七色のテープがいく筋も風をはらみ、見送りの人達の手の中にしっか

りと握られていた。


 大会に参加している約半数が今、大阪をやっと離れようとしていた。


 仲間によると、今までずっと宴会が続いていたのだとか。


    「だって、二度と日本の土を踏めないかも知れないもんね。」


    「そうか・・・・・!」



  船出のいつもの光景がここにある。


 桟橋がゆっくりと持ち上がる。


 時間通り、12:00船はゆっくりと、力強く大阪・南港を離れてい

く。


 しっかりと結ばれているはずの七色のテープが、一本又一本と海の中

へヒラヒラと舞い落ちていく。
 テープを離すまいと走りながら別れを

叫ぶ者が居る。


 それのつられて人の波が動く。


 空は・・・・・台風が近づいている事などすっかり忘れてしまったよ

うだ。


 見送りの人達の姿が遠のいていく。



  和子とひろみはもうすでにジッと横になったまま動こうとしない。


 船旅に慣れている一部の若者以外は、皆死んだように目を閉じてい

る。


 港を離れると波がだんだん高くなってきているのだ。


 そんな静けさを破って、船内を走り回っているのは、何人かの子供

達。


 夕方に入ると船は一段と大きく揺れ出した。


    「台風の影響なのかな?」


 さすがの俺も船酔いを感じはじめていた。



  8:00頃、和子とひろみを連れて上の食堂へ向かう。


    「何か食べとかないと。」


    「欲しくない!」とひろみ。


 軽く食事を取った後船酔いに効くと言う薬を飲む。


    「ひろみも薬飲んどけよ!」


    「いらない!」


    「飲んどかないとしんどいぞ!」


    「いらないもん!」


 二人共、部屋に戻りすぐ横になる。



  船酔いがきつくなりデッキにでて潮風にあたる。


 前方に薄ボンヤリした島影が長く横に広がっていて、小さな灯りがい

くつも点いたり消えたりしているのが見える。


 海はあくまでも深く暗い。
 船の周りに白い泡が暗闇に光ってい

る。


 他にもデッキに立つ人影が見える。


 船酔いに苦しんでいるのは、俺達だけではないようだ。


 潮風が肌をベトベトさせてくれるが船酔いには替えれない。



  深く暗い海と、船体にまとわりつく白い泡を見ることで船酔いを忘れよ

うと駿河うまくいかないようだ。
 空には★さへ見えない。


    「しかたない・・・・やるか!」


 洗面所に駆け込み。二本の指を喉の奥に突っ込む。


    「・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!」


 荒療治をおこなうと少し気分が楽になった。


   (薬よりきくなー!)



  二人の居る部屋に戻る。


 二人は依然動いた様子はない。


 船内では、巨人ー広島戦のTVが映し出されていた。


 ひろみも和子も良く眠っている?


 早く眠ったものの勝ちなのだ。


 一枚に毛布の中に潜り込み目を閉じた。


 ・・・・・・いつの間にか・・・・俺も・・・いつの間にか眠ったよ

うだ。


 やっと、船酔いの苦しさから解放された・・・・と思う。


 こんな事では、これからの旅を思うと前途多難なものになりそうであ

る。


 真っ暗な、台風の近づく海の中を、旅人を乗せた大きな船が、木の葉

のように彷徨い始めた。


 そう我々が見知らぬ土地を彷徨うように。


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